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その足音は立ち読みしている俺の隣で止まった。 気にしないで本を読み進める。 「あ、先客いたんだ……」 隣で止まった人物が悔しげに呟いた。 本から目を離し、視線を横に移した。 「君も寺田 勇、好きなの?」 その人物は、俺が立ち読みしている小説を指差し、満面の笑みで俺に話しかけた。 「えっ? あ、ハイ……」 かなりキョドってしまった。 なぜなら、その人物は美少女だったからだ。 誰しも絶世の美女ならぬ、美少女を見たらキョドるだろう。たぶんだけど。 墨を流したような黒髪はハーフアップにされ、毛先には天使のわっかが、目はチワワのように黒い瞳をしていた。 日本人の平均的な鼻筋の下にさくらんぼみたいな唇、華奢で折れてしまいそうな身体に白雪姫みたいな真っ白な肌。 制定のセーラー服の上にブラウンのニットを着て、スカートは膝辺りの短さ。黒のソックスがそれらを引き締め、引き立てている。 誰がどう見ても一点の隙もない完璧な美少女だ。 思わずぽーっと見惚れてしまう。 「私の顔、なにか付いてるかな……?」 美少女は困ったように眉を下げ、顔を手のひらでぺたぺた触りだした。 たぶん俺がずっと美少女の顔を見てたから勘違いしたんだ。美少女は考えも可愛いな。 「あ、なにも付いてないです! スミマセン……」 俺は恥ずかしくなって謝ったら美少女はにっこり笑い、 「付いてない? よかった。 謝らないで、大丈夫だから!」 と言ってくれた。 まさしく天使です。 街角アンケートで『天使はいると思いますか?』と聞かれたら、俺はきっとこう答えるだろう。 『さっきまで図書室にいた』と。
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