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炎があがる。
「ごめんなさいクリミナ」
さっきまで憎らしい程澄んでいた夜空は赤く濁っている。
「でもこれが私の仕事なの」
煙が肺を埋める。
「あなたとのごっこは楽しかったけど、時間切れね」
走り回る足音も、
響き渡る警報音も。
「残念だわ。だけどね、」
途切れ途切れの呼吸でさえ、
「あなたの心を奪って終わりよ」
まるで子守歌だ。
──────バンッ
──────バンッ
──────バンッ
連続した銃声。
断末魔に似た子守歌。
それを最後に眠りについたのは、体中血だらけの彼女だった。
彼女を傷つけた俺の剣は弾かれて遠くに刺さっている。
武器を持たず対峙した俺に勝ち目なんてないと彼女は思ったのかもしれない。
だけど一応軍人だから。
落ちていた銃を蹴り上げて手にし、瞬時に撃つことぐらい造作もなかったりするんだよ。
歩み寄り横たわる彼女を見下ろす。
右肩と心臓と右足と、鉛で空けた無惨な空洞。
黒ずんだ赤で埋め尽くされている。
どこの軍か、だれの差し金か、なぜ俺の命を奪おうとしたのか。
彼女の本名も、目的も、素顔も。
何もかもしらないけれど。
俺をだました敵だと言うことだけは、理解した。
あちこちで仲間が死んでいく。
同じく、彼女が呼んだであろう敵達の亡骸も倒れていた。
戦場だ。
俺も速く加勢しなければ。
騒音と悲鳴と銃声と。
彼女を弔う鎮魂歌は、悲劇しか産み出さない。
彼女は敵だ。スパイだ。
俺は騙されていたんだ。
そして軍の危機だ。
弔う時間も悲しむ時間もない。良い訳ない。
彼女に向けるのは怒りだ。憎しみだ。
感傷に浸らず剣を奮う。
血が飛び散る。
惨劇は続いた。
炎があがる。
さっきまで憎らしい程澄んでいた夜空は、今は赤く濁っている。
煙が肺を埋める。
走り回る足音も、
響き渡る警報音も。
途切れ途切れの呼吸でさえ、
まるで子守歌だ。
感情を殺して、鬼のように。
怒りをぶつけて血を浴びる。
そんな滑稽な姿を見下ろすのは、煙に霞む三日月だけだ。
その意地悪な笑みを浮かべて、煌めく星を目にして嗤う。
「─────!!!!」
声にならない叫びとなって、吐き出されるものは怒りだけじゃない。
涙なんて許されないけど、
だけど今は、今だけは。
どうか俺に悲しむ理由をください。
(Please teach me the reason)
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