旅立ちの刻

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ついに今日、この瞬間がやってきた。 おそらく私の人生にとって最大のイベント……になるのかな。 でも、いざとなるとやっぱり緊張しちゃうもんだね。 今日は私の晴れ舞台。 大好きなあの人と結ばれる儀式の日…… 私は飾り気のない一室で、一人静かにその瞬間を待った。 まだ……少し時間があるみたいね。 私は、自分が生まれてから今日までのことを振り返った。 遠く過ぎ去った想い出たちに別れを告げよう。 家族、故郷、友人、ご近所のおじさん、おばさん、学校の先生、職場の仲間達…… 明日への心配などまるでなく、毎日が新鮮な輝きと驚きに満ちあふれて、幸せだった子供時代。 たくさんの友人、学校の勉強、部活動、初恋、失恋、受験、反抗期……。 楽しいこともいっぱいあったけど、それ以上に悩みや迷いも多かった学生時代。 一人暮らし、サークル活動、アルバイト、退屈な講義。 受験勉強から開放され、自由に青春を謳歌できた大学時代。 憧れの職場への就職。 社会人としての経験を積み成長する日々。 そして彼との出逢い。 それから…… 今までいろんなことがあったなぁ。 履きつぶしてきた靴と、同じくらいの数の夢と希望、失敗と挫折たち。繰り返されてきた数多の出会いと別れ。 そして人生の岐路に立った時、いつも脳裏をよぎるのは家族の顔。 お父さん お母さん… 私をここまで育ててくれてありがとう。 しばらく離ればなれになっちゃうけど……またすぐに会えるよね。 お兄ぃ…… へへっ、悪いね。 ひと足お先に。 さて……と、そろそろ時間かな。 神父様が私のために、祈りを捧げにやってきてくれた。 悪くないわね。 まるで教会みたい。 私はガラにもなく神様ってものを信じてみる気になった。 もう大丈夫……。 覚悟はできてるから。 大きく息を吸いこみ、静かに目を閉じて、しっかりと自分自身に言いきかせた。 ……時間だ。 さぁ、行かなきゃ。 私は力強く、新しい旅路への一歩を踏みだした。 どこか……遠くのほうで、鐘の音が聞こえたような気がした。 Fin
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