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運良く誰にも見つからず駐輪場に辿り着き、バイクのエンジンをかける。
予備のメットを被らせタンデムを跨がせると、彼女は俺の腰に腕をまわして囁くように言った。
『海が見たいな・・・。』
と。
ドラマや漫画に有りがちなシュチュエーション。
その、使い古された予定調和に便乗するように俺は頷き、けたたましいエンジン音を響かせて走りだした。
『忘れることなんて、多分できない。違うな、本当は忘れたいなんて嘘なんだ。少なくとも、今この時、この瞬間を忘れるなんてしたくない。』
彼女を気遣い、ゆっくりと峠道を走る俺の背中に彼女が語りかける。
回された細い腕に、微かな力が籠る。
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