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遥斗は、耳元に響いてきた可愛らしい声に反応していた。
聞こえてきた声は、明らかに遥斗の聞き覚えのない声だったが、言葉の内容に興味を示したのだった。
胴元……。
胴元で勝負だと。
遥斗は、声が聞こえてきた方向に顔を上げると、見上げた先には、十歳程の可愛らしい少女が、満面の笑みで遥斗を見つめていた。
一瞬少女を見た遥斗は、肩を落としながら、再び顔を下げて少女に言葉をかける。
「ごめんなぁお嬢ちゃん。今、俺冗談聞く余裕ないんだよ。親の所に戻りなさいね。」
遥斗は力なく、右手で少女を払っていた。
少女は、遥斗の言葉を無視する様に、更に語りかける。
「お父さんが探しているのー。胴元ギャンブラーをねー。」
少女の言葉の内容に再び反応した遥斗は、下を向いたままで少女に問い掛けていた。
「胴元ギャンブラー……。なんだい胴元ギャンブラーって。」
少女は肩からぶら下げている小さなバッグの中に手をいれると、一枚の黒い手紙を取り出して遥斗に差し出していた。
「はいこれー。私には分からないからこれ読んでねー。」
遥斗は困惑しながらも、手紙を受け取ると、黒い手紙をただ見つめていただけだった。
「さよならー。」
少女は手紙を渡すと、笑顔で手を振りながら足早に去って行った。
遥斗は複雑な表情を浮かべながら、右手をかるく上げて少女を見送っていた。
「……。いたずらだよなぁ……。」
遥斗は手紙を見ながら一言呟くと、手紙の中身を見ることなく、ズボンのポケットに入れると、再び頭を抱えて落胆していた。
時刻は二十一時……。
公園で後悔を続けていた遥斗は、思い足取りで二十一時に家に帰って来ていた。
遥斗は、安いアパートで一人暮らしをしている。
田舎から何か夢を掴む為に都会に出てきたのだが、相談する人や、友達も出来ずに、目標が見つからないまま、ただ人生を過ごしてきたのだった。
ベットに横たわり、自身の行動を後悔し続けた遥斗は、人生に疲れていたのだった。
「働いてもギャンブルで負けて、金がなくなってまた働く。そんな生活が嫌になり、一発逆転の勝負をしても負けて、結局は一文無しかぁ……。俺は何の為に生きてるんだぁ。」
横たわっている遥斗は、明日からの事を考えるのが嫌になり、目を閉じて眠ろうとしていたのだが、腹の虫は眠りにつく事を許さなかった。
「腹減ったなぁ……。んっそういえば……。」
昼から何も食べていない遥斗は、思い出した様にズボンのポケットから黒い手紙を取り出していた。
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