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「黒い手紙とか見るからに怪しいよなぁ。手紙を開けたら何か請求されたりする新手の詐欺とかあるかもだよなぁ。」
黒い手紙と、まるでにらめっこする様に見続けていた遥斗は、決断するのだった。
「うっし。開けてみるかぁ。俺の名前とか知らないはずだから大丈夫だろ。もし詐欺だとしても俺には何も無いからな。」
遥斗は黒い手紙を開封すると、中に入っていた白い紙を取り出していた。
白い紙には文字が書いてあった。
貴方は胴元ギャンブラーとして生きる権利を獲得されました。
詳しい事は海沿いの廃墟ビルKKKの中でお話しします。
本日二十三時までにお越しください。
一分でも過ぎれば権利は剥奪しますのでご注意を……。
貴女の人生が変わります。
確実に……。
手紙を読んだ遥斗は、直ぐ様時計を見ていた。
時計の針は、二十二時二分を示していた。
「やばっ。もうこんな時間かよ。時間がない。でもどう考えても怪しいよなぁ。胴元ギャンブラー……。人生が変わるってどういう事だよ。」
遥斗は、廃墟ビルKKKの存在を知っていた。
海沿いに聳え立つ、今にも崩れそうな廃墟ビルは、長年付近に住む地元住民が、安全面を考慮して取り壊しを訴えているのだが、決して取り壊される事はなく立ち続けるビルである。
遥斗の家から廃墟ビルまでは、歩いて一時間の距離だった。
刻一刻と迫るタイムリミットの二十三時。
無一文の遥斗は、当然タクシーは使えない。
頼れる友人もいない、乗り物も一切所持していない遥斗の移動手段は、自らの足だけだった。
すでに、徒歩で間に合う時間は過ぎている為に、遥斗に悩む時間は残されていなかったのだ。
それでも悩み続ける遥斗は、考えが決まらないまま家から飛び出していた。
普段運動をしていない遥斗は、大きく息を切らしながら、廃墟ビルに走って向かっていた。
「はぁはぁ……。くそ行ってどうするんだ。はぁはぁ……。でもやっぱり気になる。」
もし、遥斗に相談出来る人間が一人でもいたら……。
もし、遥斗がこの日全財産を失っていなかったら……。
この日遥斗は、廃墟ビルに近づく事はなかったかも知れない。
廃墟ビルを目指して走っていた遥斗は、途中何度も休憩を挟みながらも、二十三時十分前に廃墟ビルKKKの前まで到着していたのだった。
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