358人が本棚に入れています
本棚に追加
「あっお兄ちゃんだー。」
扉の先で遥斗の目に真っ先に写ったのは、黒い手紙を渡された昼間出会った少女だった。
なんでこんな場所で子供が……。
暗闇の廃墟ビルには到底似合わない少女の姿に、遥斗は困惑していた。
扉の出入口に立ち尽くす遥斗に、少女は満面の笑みを送っていた。
「お待ちしていました。」
出入口で微動だにしない遥斗に、部屋の奥から一人の男性が近づき声を掛けて来ていた。
遥斗は声に反応して視線を部屋全体に動かすと、見た目は五十歳ぐらいの優しそうな顔つきの中年男性の姿を確認していた。
遥斗は男性にかるく会釈していたが、男性と少女の姿に違和感を覚えていた。
部屋の中には二人だけか……。
この二人は親子だろうか。
いや、親子なら自分の子供をこんな場所に連れて来るはずないよなぁ……。
どういう事だ……。
考え続ける遥斗に男性が声を掛ける。
「私は新道(しんどう)と言います。失礼ですがお名前伺っても宜しいですか。」
「あっ俺沢村です。沢村遥斗といいます。」
「いいお名前ですね。困惑していると思いますが、奥にテーブルがありますのであちらへどうぞ。」
部屋の中は時折すきま風が吹き荒れるほどにぼろぼろの空間に、テーブルと椅子が二つ置いてあるだけだった。
遥斗は新道の背中を追うようについていき、テーブルに近づくと二人は向かい合う形で椅子に座っていた。
遥斗の訪問を喜んでいたのか、笑顔で部屋中を走り回っていた少女に、新道は優しく声を掛けていた。
「ミミ。これから大事なお話しがあるから、ミミは部屋から出ていきなさいね。」
「はぁーい。」
少女は右手を大きく上げて返事をすると、走って部屋から出て行ったのだった。
「えっ嘘だろ……。新道さん大丈夫ですか、ビル内は暗くて何も見えないのに子供が一人とか危険すぎますよ。」
遥斗の問い掛けに対して、新道は何も無かった様に冷静に言葉を返す。
「うむ。あの子なら大丈夫ですよ。恐怖などないでしょう。むしろ楽しいのでは……。まぁそんな事より本題に入りましょう。」
新道は左手に付けている時計に視線を動かしていた。
新道を見た遥斗は慌てて問い掛ける。
「あっもしかして時間間に合わなかったですか新道さん。」
「いえ大丈夫です。まだ二十三時前です。」
時間に間に合った事を告げられた遥斗は胸を撫で下ろしていた。
新道は時計を見続けると、そのまま黙り混んでいた為に、部屋中は沈黙が支配していた。
最初のコメントを投稿しよう!