-序章-

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初めはたしか小さい女の子だった。 迷子かと思い手を差しのべると 自分をすり抜けて消えた。 そんなことが何日も続く。 友人に話しても もちろん信じてもらえない。 今日は妖怪の数がやけに多い。足の踏み場も無いほどに。 だが、そんなことは気にしなくていい。 実際そこに無い"モノ"だから―――。 「だ・か・ら!!」 鈴は高級そうなテーブルクロスがひかれた机を叩いた。 「ほんとにいるんだって! 今日なんか凄かったよ? ウチの神社で集会でもあるのかって感じ。」 熱く語る鈴の前には呆れた表情の女性がいる。 彼女の名は、五條院麻姫(ごじょういん まき)。大金持ちの家に生まれた。 何一つ不自由ない暮らしを送ってきたが わがままなどとは程遠い 立派な女性だ。 小柄で短髪な鈴とは正反対の長身・長髪で大人びている。 鈴とは中学からの仲で、今年で3年目だ。 「そんなこと言われてもねぇ…。だいたい なんで最近急に見え始めたのよ?」 「…それはきっと 巫女としての実力がついてきたのよ!」 「別に鈴 本物の巫女じゃない――」 ドタン!!!! 麻姫の言葉は鈍い音にかき消された。 「何…?」 すると2人がいる部屋の扉が大きく開かれた。 「ご無事ですかお嬢様!?」 「夜墨!?」 入ってきたのは麻姫のボディーガード兼メイドの藤堂夜墨(とうどう やずみ)だ。 手には日本刀を持っている。 「えっ ちょっ…刀…?」 その様を初めてみた鈴は動揺している。 だが麻姫は慣れた表情だ。 「パパの後継ぎのことで色々…ね。ごめんね迷惑かけて…。」 麻姫は申し訳なさそうに言った。 鈴はただ戸惑うばかりだ。 「で、夜墨。刺客は?」 「急に窓が割れたり 扉が開いたり…。何やらよくわかりませんが危険です。早くこの場から――――」 麻姫と夜墨の会話など、鈴の耳には入らなかった。 夜墨が入ってきた扉から、1人の女が入ってきたのだ。 足音も無く。 黒いミニスカスーツを着ていながら、頭にはウサミミがついている。 ただのふざけた女かと思ったが、目付きが尋常じゃなく鋭く赤い。ウサミミも飾りにしてはしっかりしている。 そんな女が部屋に入ってきたことに麻姫と夜墨は全く気付いていないのだ。
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