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「って、てめぇ…」
男の言葉が終わる前に再び破裂音。男が無言のまま昏倒した。
当然、カボチャは粉々である。
「ありがとうおじさん!嬉しいけど、おじさんみたいな紳士を喧嘩なんかに巻き込むわけにもいかないから!」
少女はカボチャを抱えたまま素早く動く。
「あなたの頭上に神の祝福があらんことを!」
それから少女はややひきつった笑顔をアルナスルに向けると、ノックアウトした男の襟首を掴んで脱兎のごとく逃げ出した。
「あ、ちょっと…」
伸ばした手は空を切り、アルナスルは行き場を失った手をみながら呆然と呟く。
「おじさん…?」
確かに長く生きてはいるが、アルナスルの見た目は若いままの筈である。
†
「っく。死ぬかと思った…」
「悪ぃ悪ぃ」
全く悪びれずに謝るヴァプラに、ナフードは恨みがましい視線を向けた。
気分は最悪だ。なんせ死ぬ思いをしたのだから。
「こんなことならイタカに乗ってくればよかった」
妖魔であるイタカにのれば、悪目立ちはするがもっと快適に来ることができたはずだ。
「まあ過ぎたことは気にするな!」
「おまえがいうな」
まだなにもしていないのにどっと疲れが出てきて、ナフードはげんなりとして言った。
それに悪い悪いとやっぱり笑いながらいい、ヴァプラはうーんと伸びをした。
「さーて、アル坊はどこかなっと」
通りは人で溢れかえっている。ここから一人を探し出すのは至難の業だろう。
「おい、シェ…」
そして、ナフードが振り返るとすでにそこにはヴァプラの姿はなかった。
「……」
風が、なぜだか寂しく感じた。
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