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街は、賑やかだから好きだ。アルナスルは人混みの中を歩きながら思う。
今は王という立場だが、元々アルナスルは他国の貧民街に住んでいた。
そんなアルナスルにとって街とはとても馴染み深いもの。こうしてちょくちょく出掛けるのはいい息抜きになる。
「あっ…」
途中で買った串肉を頬張りながら歩いていると、曲がり角から不意に飛び出してきた少女とぶつかった。
しりもちをついた少女の手には、なぜかカボチャ。それも大量にあった。
「わあぁぁ!ご、ごめんなさい」
大小さまざま、紐で繋がれたカボチャは落ちた衝撃でごろりと転がる。
「大丈夫かい?…またすごい量だね」
アルナスルが手を貸して少女を立たせてやると、少女は困ったように笑った。
「ありがとうございます。いや、ちょっと手近なものがこれしかなかったので」
「?…なにか困っているようなら私が手を貸す、」
よ。という前に破裂音。飛び散ったカボチャの種が、アルナスルの顔にベチョリと張りついた。
ギシギシと視線を前に向けると、硬直しているボロを纏った男と目が合う。
そして、そんな男が出てきた路地の壁には、砕け散ったカボチャの残骸が張り付き転がっていた。
「チッ、外したか」
声。それは、間違いなく少女から発せられたものだった。
アルナスルは思わずつばを飲み込んだ。
信じたくはないが、声の主も、そしてカボチャを持っているのも、目の前の小柄な少女である。
いや、信じたくはないけれど。
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