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ただ貪欲だった。
俺の身体を構成する細胞のひとつひとつに、その欲は目一杯詰まっていた。
はしたないと思った。浅ましいと思った。
それでも、止められそうにない事を、俺は細胞単位で知っているのだ。
乾き始めた黒髪を梳く。瞳を持ち上げた彼女は微笑んだ。嫌味がない笑みだった。
「なんだか苦しい」
気付いたら、そう言っていた。
「陽・・・?」
彼女が俺の頬に触れる。
俺は少し驚いて、跳ねる。
「どうしたの?」
泣きそうだった。目の前に少女が無性に愛しくて、自分が無性に情けなくて。
俺の心は不安定になっている。それは自分でも分かっていた。
「泣きそうなの?」
そう尋ねる彼女に首を振る。
「泣かないよ」
そう言って、彼女を引き寄せた。
抱きしめる。服のこすれる音がした。
何を確かめているんだろう。
触れなければ、それは確かめられないのだろうか。
いつか、この気持ちが薄れて無くなる日が来るのだろうか。
そんな恐ろしい日がくるのだろうか。
嫌だ。
じゃあなんで、嫌だと思うのか。
頭を回る思考の渦、俺はどれもつかめ無い。
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