Xの行方

2/9
141人が本棚に入れています
本棚に追加
/94ページ
ただ貪欲だった。 俺の身体を構成する細胞のひとつひとつに、その欲は目一杯詰まっていた。 はしたないと思った。浅ましいと思った。 それでも、止められそうにない事を、俺は細胞単位で知っているのだ。 乾き始めた黒髪を梳く。瞳を持ち上げた彼女は微笑んだ。嫌味がない笑みだった。 「なんだか苦しい」 気付いたら、そう言っていた。 「陽・・・?」 彼女が俺の頬に触れる。 俺は少し驚いて、跳ねる。 「どうしたの?」 泣きそうだった。目の前に少女が無性に愛しくて、自分が無性に情けなくて。 俺の心は不安定になっている。それは自分でも分かっていた。 「泣きそうなの?」 そう尋ねる彼女に首を振る。 「泣かないよ」 そう言って、彼女を引き寄せた。 抱きしめる。服のこすれる音がした。 何を確かめているんだろう。 触れなければ、それは確かめられないのだろうか。 いつか、この気持ちが薄れて無くなる日が来るのだろうか。 そんな恐ろしい日がくるのだろうか。 嫌だ。 じゃあなんで、嫌だと思うのか。 頭を回る思考の渦、俺はどれもつかめ無い。 .
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!