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「……18日、ですか?」
競技場にある唯一の屋根の下で、灼熱の太陽に晒されて火照った身体から滝のように流れ出る汗を、俺はもう何度も手の甲で拭っていた。
汗がしたたる髪に当たらないように耳から少し離した携帯からノイズ混じりに聞こえてくる、我らがバンドリーダーの声音。
「そ、この前ホールで演ったバンドが対バンしたいって話くれたんだ」
「…あと三日じゃないですか」
「大丈夫だろ、曲はあるんだし」
「そうですけど…」
俺はふくらはぎの筋肉を揉みほぐしながらあからさまに渋っていた。
もちろん修介さんは直ぐそれに気付いた。
「なに、なんか用事あるんだ?」
「…一応」
短く小さく返すと、暫く修介さんは黙って、その後一言こう言った。
「デート?」
「っ!?…いや、ちがいます!」
「バレバレ」
修介さんが独特な喉の鳴らし方をした。それは彼の堪え笑いだと俺は知っていた。
「いいよ、隠さなくても。じゃあ折角だけど、今回は断わろう」
「え、いいんですか。俺だけの理由で…」
「構わないよ。演り急ぐ必要は何もないし、それに…、陽が俺らのせいで失望されたら困るしね」
俺が何も返せないでいると、今度は大きな笑い声が受話器から響いた。
「じゃ、また今度、楽しんで」
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