Xの行方

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携帯の発信ボタンを押す。 ワンコールも待たないで、彼は出た。 「お前っ・・・!何回掛けたと思ってんだ!ふざけんな!」 「ごめん」 「くそが!・・・んで、話す気になってくれたわけか」 カズが怒りを抑えて聞いてくる。ありがたいと思った。 「うん、今から会えるか」 「珍しいなお誘いなんて。いいぜ」 ーーースウェットにビニール傘にオレンジ色の頭で、カズはこっちに近づいてきた。 なんて柄の悪いやつだろう。 「よう」 彼は軽く手を挙げた。 俺の名前を呼んだわけじゃなかった。 「とりあえずどっかはいんね?」 俺が何も言えないでいると、彼はそう言って歩き出した。口調が緩い。きっと俺を気遣っているんだろう。 近くのカフェは、雨のおかげで客は少なかった。 窓際の席に二人で向かい合うようにして座った。 カズはまたコーヒーだ。砂糖は入れないらしい。 「いきなり理由聞かせろって、まずいか?」 俺はカズの気まずい瞳を覗き込む。 「理由は・・・言わない」 俺がそう言うと、小さなため息が聴こえた。 「じゃあなんだ、休止以外の話なら聞いてやる」 俺は苦笑する。 なんとも彼らしい。むすりとした顔で俺を睨んでくる。 「カズに聞きたい事がある」 彼はため息を着く。 「俺が話すのかよ」 湯気立つコーヒーを一口啜りながらも、カズは俺から視線を外さなかった。 「何だよ。聞きたい事って」 俺はは自分の前におかれた半透明のオレンジ色を眺めた。それが熱いのか冷たいのか、触れなければ分からないなと思った。 「修介さんの」 カップに触れる。熱が掌に伝わってきた。 「修介さんの過去を知りたい」 カズが目を見開くのが気配で分かる。 半透明の水面に映った俺の顔はぼんやりとしていて、よく分からなかった。 .
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