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「お前・・・」
明らかに何かを言おうとして、カズは口を噤んだ。俺が修介さんと何かあったのが分かったのだろう。
俺はもどかしそうなカズを見ても、口を開かなかった。
ここで言うわけにはいかない。今まで作り上げてきたものを壊すのとおんなじだ。
理由を聞かないでも、教えてくれないか。
分かってくれないか、カズ。
カズはしばらく黙ってこちらを見ていた。
いつも笑っているせいで猫みたいに細まっている瞳は、本当は猫みたいにぎょろりとしているのだ。
「これを話せば、何か変わるか」
俺は今度は顔をあげてカズを見据えた。
不安そうに眉尻が下がっている。
「変わる、きっと」
カズは短く息を吐いた。
「修さんは、自分が嫌いなんだ」
目を細めて笑う修介さんの姿が目の前に浮かんだ。
彼の瞳はいつも、瞼に隠れて見えなかった。
ーーー「あ、あの」
譜面を見ていた彼が顔を上げる。俺を見て微笑んだ。つり目で一見いかつい容姿なのに、笑みはいつでもこんなに優しい。
「一応、詞作ったんですけど・・・見てもらっていいですか?」
「本当?見たいな」
「期待はしないでください・・・」
俺は意を決して自作の歌詞を彼に手渡した。
彼は笑みを浮かべながら眺めて、しばらくしたら顔を上げた。
そうして一言こう言った。
「純粋でとても良い」
彼のその言葉に俺はなぜか強く心打たれて、この人について行こうと、決めた。
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