落花流水

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「あったら可愛いなって思って」 「じゃあ買ってくか。小さいやつがいいかな」 一緒に品物を見ながら他愛ない話のできることが、素直に嬉しかった。 CDショップや本屋に寄ったあと、貴方は少し休憩しよう、とカフェに入る。 席について、注文をすませた。 「泉澄、今日はしっかり化粧してるね」 「う、うん」 ……だって、綺麗に見られたいじゃない。 特に美人ってわけじゃない。私はそれを分かってるから。 「どうして、そんなこと言うの?」 気まずい雰囲気の中、ミルクティーとコーヒーが運ばれてきた。 「化粧なんかしなくても、泉澄は十分綺麗」 貴方はさらっとそう言って、コーヒーを飲む。 「そんな…」 耳まで赤くなっているに違いなかった。 「だって本当だから。自然体の泉澄が、僕は好きだよ」 貴方の口からよどみなく出てきた言葉に、私は驚いてしまった。 ……好きって、本当? 貴方、本当にそう言ったの? 「あ、雪だよ」 貴方が空を指差す。 見上げると、細かな雪が舞いつつあった。 「今年最後の雪かな」 貴方と一緒に歩く帰り道。 私の歩調に、さりげなく合わせてくれていることに気づいた。 不意に手をつないでくる貴方。 それが嬉しくて。 「蓮」 私は意味もなく、貴方の名前を呼んでしまう。 「何?」 「ううん、何でもない」 貴方と一緒に、ずっと歩いていきたい。 手から伝わる温もりを、大切にしたい。 雪の降る街。 それでも確実に近づいてくる春を、私は感じていた。 ―――――To be continued...
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