落花流水

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雨が降りだした、夕暮れの街。 ベランダに出て、空を見上げる。鼠色の雲から、絶え間なく落ちてくる、雨粒。 ……この汚れた世界を、浄化するかのようだ。 雨足は次第に強くなる。 見下ろせば、点々と傘の花。 インタホンが鳴った。 玄関のドアを開けると、そこにはずぶ濡れになった君。 「どうしたの?」 僕は問いかけるが、君は答えない。 ただ、俯いたまま。 唇を噛みしめて、手をぎゅっと握りしめて。 「とにかく入って。風邪引くよ」 僕は君を部屋に入れて、半ば強引に脱衣所に押し込んだ。 風呂から出てきた君は、僕の部屋着を着ていた。 まだ、表情はかたい。 「何か飲む?」 キッチンに行こうとした僕に、君は突然しがみついてきた。 湿った髪。 ぽんぽん、と軽く君の頭を叩く。 「……何があったか、聞かないの?」 消え入りそうな声。
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