落花流水

6/95

13人が本棚に入れています
本棚に追加
/95ページ
部屋の中に、柔らかな朝の光が満ちていた。 時計を見ると、午前4時半。 ベッドのそばに座ったままだった。 ……あ…、そうか。 昨日の出来事を思い出した。 僕のベッドで熟睡している君。布団からわずかに髪が見える。 くすりと笑って、僕はキッチンへと立った。コーヒーメーカーを出して、手際よくコーヒーを入れる。 部屋に芳香が漂った。 マグカップに注いで一口飲む。 君の起きる気配はない。 脱衣所に入って、君の服を洗濯機から取り出す。シンプルなコットンシャツとジーンズを丁寧にたたんで、服を脱いで風呂に入った。 蛇口をひねると、熱い湯が降ってくる。 現実に、引き戻されるような感覚。 昨日、君は僕を頼ってくれたけど。僕は果たして、君を支えることができるだろうか。 それでも。 君を、守りたいから。不安よりはるかに強いそんな想いが、胸を満たしていく。 髪を拭きながら部屋に戻ると、まだ君は眠っているようだった。 ベッドのそばに歩み寄る。君の服を枕元に置くと、布団から覗く君の横顔。 ……この眠りを、守りたい。 「ん……」 寝返りをうって、君はうっすらと目を開けた。 「おはよう」 君はがばっと跳ね起きる。僕の声に驚いたようだ。 「えっ? あ、あの」 「コーヒー入れてあるけど、飲む?」 見る間に君の頬が赤く染まった。 笑いをこらえてキッチンに行き、コーヒーをふたりぶん持ってきて、君に渡す。 「ありがとう…」 カップを受け取って、赤い顔のまま君はコーヒーに口をつけた。 携帯の着信音が響いた。 びくり、と肩を震わせ、すぐに携帯に出る君。話す表情も、声もかたい。 程なく電話を切った。 「ごめんね。もう帰らなきゃ」
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加