落花流水

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「…うん、わかった。服、そこにあるから」 そう言って、僕は君に背を向けた。 手早く着替えて、君は玄関で靴をはく。 「ありがとう。コーヒーご馳走様」 「うん。じゃあ」 そっけなく挨拶をして、君はドアを開けて出ていった。 その時垣間見えた、君の辛そうな横顔。 部屋に戻っても、さっきの君の表情が頭から離れない。 僕はキーボックスの中を探り、急いでスニーカーを履くと、部屋から飛び出した。 「待って!」 路地を曲がって早足で歩いていく君を、僕は大声で呼び止めた。 怪訝な顔で振り返る君。 「どうしたの?」 「…あの、手を出してくれる?」 手のひらに乗せられたそれを見て、君は瞬きを繰り返した。 「スペアキー。家の。よかったら、持ってて」 君は鍵を見つめたまま、黙っている。 「…あ、ごめん。迷惑だった?」 君はふるふると首を振った。 「ううん。でも…いいの?」 僕は笑って、頷いた。 「ありがとう」 君は笑った。やっと、君の笑顔が見れた。 「じゃあね」 「うん。また」 片手を少し上げて、僕は歩いていく君を見送った。 家に戻りながら、僕は君の笑顔を思い出していた。 僕は、ここにいるから。 ……辛くなったら、いつでもおいで。 君の笑顔を、少しでも長く見ていたいから。 見上げると、昨日の雨が嘘のような青空が広がっていた。 ―――――To be continued...
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