落花流水

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苦しい時、誰かに手をさしのべても、いつも振り払われてきたから。 期待して、裏切られることには慣れている。 全てなかったことにすれば、必要以上に傷つかなくて済むから。 いつの間にか、貴方の携帯に電話してた。 呼び出し音が一回、二回…… 『はい』 「あの…わ、私。今、大丈夫?」 『うん、どうした? 何かあった?』 貴方の穏やかな声。ほんの少しの言葉にも、優しさを感じる。 「あの…聞いても、いいかな」 『いいよ。何?』 「どうして…私にスペアキーくれたの? 彼女とか、いないの? いたら彼女に悪いなって…」 『いないよ。彼女なんて』 貴方はきっぱりと否定する。 「そう…なの」 それ以上、言葉が出なくなってしまった。 『スペアキーは、僕が渡したかったから。君だから、渡したんだ』 「私だから…?」 『そうだよ。君じゃなかったら、渡さないよ』 念押しのように。貴方はちょっと小声になった。 「…うん。また、そっちに行ってもいいかな」 『いつでも。待ってるから』 「うん。じゃあ、また」 『またね』 通話が切れるのを待ってから、私は携帯を閉じた。 ……嬉しい。 涙が溢れた。 布団の上にうずくまって、嗚咽がもれないように気をつける。 貴方を、信じるところからはじめよう。 貴方の部屋の鍵を握りしめて、私はそう決めた。 ―――――To be continued...
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