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とある都市の、とある一軒家。広い庭に、風通しの良い大きな窓。その隙間から漂ってくる甘い香り。パンケーキの匂いだ。誰かの足音が聞こえる。バタバタと落ち着きのない音がだんだんと大きくなっていった。
「ジェシー、そんなに急がなくてもケーキは逃げてはいかないわよ」
「だって早く食べたいんだもん」
澄んだ女性の声に、無邪気な少女の声。そこにでもある日常の音。
「食べるときはよく噛んで食べなさい。喉につっかえるからね」
男性の低い声が加わった。おそらく少女の父親なのであろう。
「はーい。いただきまーす」
その声を区切りに、カチャカチャと金属の当たる音が混ざり始めた。
「・・・それ、この前の裁判の記事?」
母親であろう女性が男性に聞いた。
「ん?ああ、そうさ。今回ばかりは少々長引くかとも思ったが、案外順調に進んだものだ」
男性がバサリと新聞を大きく広げた。女性がそれを覗き込む。
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