*第一章*

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 例えば三日間続く梅雨の日に、道端で女性が蹲っていたとして、無視して通り過ぎる事は出来るのだろうか。 答えは断じて否である。 「大丈夫ですか?」  質実剛健な大和魂を持つ事を自負している天(そら)は、蹲る女性に手を差し出した。 ビニール傘の下から上げられた女性の顔は真っ青で、左目尻についた泣き黒子がその儚さを主張している。 年齢は二十代前半といったところか。 少しの逡巡を見せた後、女性は天の手をとり、言った。 「ありがとうございます……。あの、この辺りでどこか休めるようなところはありますか?」  今思えば、あの時にうっかり部屋へ招いてしまったのが全ての元凶だったのだ。
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