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社の扉に手を掛ける。一瞬勝手に開けていいのかとかそもそも開くのだろうかといった思考が頭の中を駆けたが、それも言ったとおり一瞬で、次の瞬間には扉に掛けていた手を手前に引っ張っていた。
俺の思考を嘲笑うかのように扉は簡単に開いた。ぎぃぃ、と錆びた蝶番の音が聞こえて、次いで黒い光が中から漏れ出した。
その黒い光が俺の体に浴びせられる感覚にぞわぞわと全身の毛が逆立つような感覚がする。何時の間にか頬には冷や汗が伝っていた。
中に何かがあると予想はしていたのだが、何があるのかと聞かれると、それは答えられない。それくらい漠然とした考えだったのだが、中を見てそんな安っぽいチンケな考えも冥王星辺りに飛んでいった。
中は真っ黒だった。
普通は祭壇とか電気とか畳とか何やら見えるもんだと思っているが、その社の中は真っ黒だった。真っ暗ではない。真っ黒なのだ。
奥は見えないし、というか自分の一歩先すら見えないのだが、その癖自分の体だけははっきりと見えやがる。不気味を通り越して、最早恐怖しか湧かない光景だ。
ここまで来て、流石に俺の好奇心が生物としての防衛本能――恐怖心に負けたらしい。それ以上足を前に運ぼうなんて馬鹿な考えは浮かばず、俺は壊れたロボットみたいにぎこちない動作で身体を反転させた。
社の扉を開けるのには階段を三段ほど上らなければいけない。
身体を反転させた俺は扉を閉めることも忘れて、三段一気に降りようとした。
焦っていたのに、そんな事をしたのがいけなかったらしい。俺はバランスを崩して足を滑らせてしまった。
そして、そう。運の悪いことに、俺は後ろ側、つまり
社の中に倒れてしまったのだ。
恐怖とか興味とか、そんなものは倒れている途中には感じない。ただ、やがて来るであろう衝撃に身を構えるだけだ。
勿論その例に漏れず俺もそうしていたのだが、一秒もせずにやって来るであろうその衝撃は全くやって来ず、代わりにやってきたのはあの『真っ黒な光』と、強烈な眠気だった。
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