雨の日

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雨の日

その日は1日中、雨が降っていた。5月の空の下での体育祭も終わり、もう6月も半ば。梅雨時には入ると晴れてる時の方が珍しくなる。この雨は所々止みながらも、もう一週間も降り続けていた。  「やぁね洗濯物、干せなくて、家の中で干すとじめじめしちゃうのよ。」 執行先生は窓ごしにため息をつく。確かに部屋の中は生温くイヤな感じだ。私は読んでいた本をたたむと窓ぎわにたった。  「先生は雨嫌い?」 私の質問はそんなに変だったのだろうか。先生は目を丸くして首をひねった。 「妃菜ちゃんは、雨が好きなの?」 その返事に私は言葉じゃなくただコクンとうなずく。 昔から雨は嫌いじゃなかった。むしろ好きな方である。外に出かける時はさすがに足もとが濡れて嫌だが、部屋から見る、窓ごしの雨はそんなに悪いものではない。静かな中にも音があり、自分の心が落ち着いていく。そんな感じになる。 「そう。妃菜ちゃんは雨が好きなんだ―…へぇ…」 先生もただじっと雨を眺めた。二人しかいない薄暗い教室に静寂がやってくる。聞こえるのは雨の降る音とこちらに近づく足音……… 私と先生は顔を見合せドアの方に目をむけた。 ガラっ  ドアがノックと共に開いたのはそれからすぐの事だった。  「しつれいしまぁ~す」とゆっくり、のっそり中を伺う様に入って来たのはもう60手前のおばあちゃん先生。岩本先生だ。岩本先生は私と先生だけの存在を確認すると「あぁっ」とイラだった様にため息をついた。「また斗望のやつ、いなくなっちゃったのよ!」 斗望?トモ…?誰だそれ… 私にはわからなかったが執行先生はうなずき、困った様に笑った。 「またいなくなっちゃったんですか?悠くん。」 執行先生は再び窓の外を眺め「この雨なのにねぇ~」と顔をしかめて立っている岩本先生に視線を戻す。 「全く、どこほっつき歩くのかなぁ、神社にいるのかしら?!」神社とはたぶん中学の後ろの森の中にある、智日津神社の事だ。  「もう、私、次の授業行かなきゃいけないのよ~。たぶん給食になったら帰って来ると思うんだけど…。」そう話をしながらも岩本先生はすでに廊下に出て、去って行った。廊下の方からまだ岩本先生の一人愚痴が聞こえている。
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