出逢いは…

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あの人を初めて見たのは、5月の晴れ晴れとした日でした。……―――その日は今月末に予定されている体育祭の全体練習が朝から行われていて、迷惑な程の威勢のいい声が校庭中を飛びかっていた。もちろん私はそんなものに参加する訳もなく、心の教室の窓から頬杖をつきながらその様子を眺めていた。始めは気分がよかった。皆、汗を流しながら走り回るのに私は涼みながらそれを見続ける。特別な様で、口元には笑みもこぼれていた。でも、何か足りない気がして、演目が進むにつれ、私の気持ちは憂鬱になってきていた。 「ちょっとトイレに行ってきまーす。」 5月の温かさにうとうとしている執行先生に聞こえるか聞こえないかのボリュームでそう云うと私は教室を静かに飛び出した。  誰もいない廊下―……外でのにぎやかな声が遠くに聞こえる。私は水道場の蛇口をひねり、流れ落ちる水を眺めながら、じっと思った。なんで…ここにいるんだろ…普通なら私も外でみんなと一緒に……フツウなら…。そう考えるだけで嫌な思い出が頭の中を過る。 「デブ」「バカ」「ブス」心ない言葉。わかってる、私が悪いんだって。でも、言われたら傷つくのはしょうがないじゃない。立ち上がれなくなるのが普通でしょう?  キュッ  水道の蛇口をきつく閉めると私は再び、心の教室への帰路を歩きだした。帰路と言っても教室3つ分の道のりなのだが……。  「……」途中、風と共に、何かいい香りが私の髪をゆらした。ふと見るとそこは心の教室のすぐ隣にある作業室。――ここは確か、おばあちゃん先生で有名な岩本先生の担当の教室だったな…。私は音を立てない様に中をそっと覗いた。  卓球台がおいてある。あれ卓球部の部室ってここだっけ? 中に入ると、また涼しい風が開け放された窓から入ってきた。風が吹くたびにあの匂いがする。なんだろう…洗濯の匂いかな。
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