雨の日

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「……妃菜ちゃんは会った事なかったかな?悠くん。」再び静かになった頃、執行先生は静かに切り出した。「はるかくん?……わかんない。」 でも私の頭には浮かんでいた。5月に作業室で会った(見た)爆睡してた先輩を。たぶんあの人なんだろう。執行は続けた。  「悠 斗望(はるかとも)くんっていってね、3年生なんだけど、今年、転校してきてね。でも、慣れなくて教室にはいけないから、岩本先生が受け持ってるみたいなの。」 先生は机から書類を取出し立ちあがる。  「でも授業も出ないで、すぐどっか行っちゃって。神社とかで寝てるみたいなんだけど。かなり先生も手を焼いてるみたいよ。」 背伸びをし、ちょっと困った様に笑った執行先生。先生は…いつも優しい人だった。言葉の節々も柔らかく、あったかくて…私はそんな先生が大好きだった。  「行こうか」と笑う先生のあとにくっついて、廊下に出る。毎日、お昼近くなると私達は職員室に行き、書類のコピーやら、パソコンいじりなどをして給食が始まる前にまた教室に帰って来るというのを日課にしていた。絶対に休み時間など人が賑わう時間は教室から出ない。出られないんだ。   誰もいない授業中の廊下を執行先生と笑いながら職員室へと歩いていく。途中、執行先生がトイレに行くといい、昇降口の近くにあるトイレに寄った。これも毎日同じ事。待ってる間、私は昇降口の向こうに見える校庭の景色を見つめていた。雨は勢いを増し、先が見えない程になっている。 斗望って人…傘持ってるのかな?…傘持っていてもこれじゃあ…。  そんな事を考えてる内に先生はトイレから出てきて、水道で手を洗っていた。 それは毎度の事で、変わらないはずなのに私は何かが違う様な気がして辺りを見回していた。静かで、ただ静かで……… キィ……… すぐ横でドアがあく音がした。私は振り返る。  男子トイレのドアがゆっくりと閉まろとしていた。 床にしたたる、水滴。  私は思わず目を見開いた。
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