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「ねえねえ長助」
すぐ横の席から、唐突に僕のことを呼ぶ声がした。その慣れ慣れしい声は、よく聞き慣れたものだったけど僕は当然それを無視した。
「そういえばさ、私昨日公園でものすごく大きな犬を見かけたんだ」
僕の冷たい対応を全くもって気にかけない彼女は、ごくごく自然に話し続ける。これでは、まるで休み時間に、親しい友人とお喋りに興じているみたいではないか。僕は一言も喋っていないのに。
「その犬は走り回って遊び疲れたみたいでさ、ものすごく息を切らしていたんだよ。それを長助に教えてあげようと思って昨日メールしたんだけど」
そんな情報誰得だ。
「……志村さん、ちなみにその犬の名前は?」
視線は机の上に広げたノートに落としたまま、できるだけ唇を動かさないようにして聞いてみた。
「太郎だよ」
ああそうか。それじゃあ昨日送られた『太郎が下を丸出しにしてハアハアしてる。可愛い』というメールは、犬の太郎君が舌をだしてハアハアと息を切らしていたということか。てっきり、露出癖のある太郎君が下半身丸出しで興奮している様子を実況生中継しているのかと。
「どうして返信してくれなかったのさ」
ドン引きしてたからさ。
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