志村いち。

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「ほわっつ!?」  ワンテンポ遅れて、芸人の方でもなかなかしないような、奇声があがった。そんなボケをかませるあたり、まだまだ余裕があるのかと思ったけど、彼女の目の端にはしっかり涙が浮かんでいる。かなり痛かったらしい。でも同情する気は全く起きない不思議。もっとやれ。 「何すんのさ!?」  シャレにならない痛さだったようだけど、クラスには笑いが起こる。百歩譲って、道化になってクラスのみんなを楽しませることがいい事だとする。でも、その言葉遣いはどうかと。 「太郎君のくせに!」  でも太郎君は、  パスン!!  世界史の先生だ。立場はわきまえるべきだろう。  もう完全に志村さんのペースだ。教室のあちらこちらで勝手な野次とお喋りが始まり、授業の体をなしていない。  先生のはち切れんはかりの怒声も完全に飲みこんでしまった。ここは心の中だけでも先生の味方であるべきかもしれないけど、いかんせん、ブリーフ派丸出しの人間を応援する気にはなれない。代わりに、心の中で突っ込む。方言は雰囲気で。  なんでやねん。 「志村!! 後で職員室に来い!! それからお前もだ!!」 「……なんでやねん」  手元のノートに視線を落としたまま聞こえるか聞こえないかぐらいの声で、結局、呟いた。
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