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人里を離れ、深い森を抜けた先の海岸線の近くに、名も無き小さな修道院がひっそりと建っていた。
ここでは神に仕えるシスター達が、日々清く正しい生活を慎ましく送り、聖なる存在にその身を呈していた。
ここにいるシスター達は、苦しい境遇から逃れてきた者や花嫁修業のために訪れた者など、その理由はじつに様々だった。
この修道院には、一人の清楚で美しい少女がいた。
少女はこの中でも特に美しい心を持っており、ほかのシスター達も感心するほどだった。
彼女は、もとは非常に高貴な生まれであったが、そんなことを微塵も感じさせないほど誰とでも分け隔てなく優しく接することができた。
少女は世を憂いていた。
(どうして人は争うのかしら。どうすればこの世から争いがなくなるの)
彼女は、地平のかなたまで広がる碧い空と、流れる雲を真っすぐに見つめていた。
この瞳は、この世の汚れをどんなにたくさん目にしても決して曇ることはないかのように、どこまでも美しく透き通っていた。
少女は熱心に神に祈りを捧げた。
「この世界から戦争がなくなりますように。どんな小さな争いや差別さえも……」
どれほどの月日が少女の傍らを通り過ぎたのだろう……
そして、ついに少女の願いが聞き届けられる日がきた。
その瞬間、世界の人間は、少女一人を除き全て消滅した。
Fin
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