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その人に連れられ、学校を出た。僕はその人の後ろを行く。背が高くてのっぽのようだ。髪は短く、よれよれの白いTシャツを着ている。
「松浦君」
その人は前を歩きながら僕を呼んだ。
「いえ、松村です」
そうか松村か、とその人は頭をかいた。わざとらしい。
その人は白い車の前で止まり、こちらを向いた。
「今から私の研究所まで来てくれないか?」
顔のしわの具合から、四十歳前後と見た。
「はぁ。いいですが……」
僕の返事を聞くとその人は
「おぉ。ありがとう。じゃあ是非この車にのってくれ」
と言い、車のドアを開けた。
僕は遠慮気味にその車に乗り込む。
すると、その人は運転席に座り、すぐ車を動かした。
学校から離れていく。
「私は神田という者だ。普段は脳関係のことを研究している」
その人――神田さんはタバコを吸い出した。
やめてくれ。僕は苦手なんだ。
「あの……タバコ吸うなら窓を開けてくれませんか?」
「おぉ。それは悪かった」
神田さんは車の窓を開けた。
そしてタバコをもつ右手を窓の方へやる。
片手の運転はよろしくないんじゃないか?
「時に、松浦君よ」
「松村です」
「……松村君よ。君は本当に車のナンバーを記憶していたのかい?」
神田さんはバックミラーを通して僕を見た。
僕は神田さんの後ろ姿を見て答えた。
「というと?」
「いや、どうもね。前に見たものを思い出している感じがしなかったからさ。目の動きとかね。人は何かを思い出す時、眼球を左上に動かすんだ。しかし、君は」
僕は窓の外に目を向けた。
「右上に動かしたんだ」
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