ひき逃げ

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僕が何も答えなかったせいで、沈黙が訪れる。 だが、この沈黙は僕の答えだった。 「右上に動かした時、一般的には見たことのない光景をイメージしている、と言われているが、私はもうひとつあると思うんだ。それは……頭の中に保存してあったものを見ている時、だ」   僕は僕の沈黙を守り続ける。 「見たことのない光景をイメージするということは、頭の中だけに創った世界を見ているということだ。だから、頭の中に保存してあったものを見るのも同じじゃないか?決して思い出しているわけじゃない。頭の中だけにあるものを見ている」   僕は気付いていた。この人は、僕の能力に気付いていることを。 「松村君」 神田さんは言った。 「君は、見たものを写真のように脳に記憶することができる。そうだろう?」   僕の返事は決まっていた。 「……はい。その通りです。僕は車のナンバーなんて覚えていませんでした。頭の中に在った写真を見ただけです」 車が止まった。 研究所とやらに着いたみたいだ。 「やはりそうか。ありがとう。じゃあこの研究所の中に入ってくれ」   神田さんは車を降りた。 僕も同じように車を降りる。 車のドアを閉めると、神田さんは言った。 「ここが私の研究所だ」   僕は神田さんの指差す方を見た。 「あっ……。ここなんですか」   そこは、僕が昨日訪れた奇妙な白い建物だった。
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