ひき逃げ

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「へぇ……。人は見かけによらないんですね。実感しました」 「なっ!?松村君。私を馬鹿にしたな?」 「いや、逆ですよ。中身はすごいんだなって」 「それは、違う角度から見れば容姿は馬鹿そうだと……」   まあ、そういうことです。と言う代わりに笑っておいた。 神田さんはやや不満そうな顔をしたが、すぐ表情を戻し 「そんなことはどうでもいい。私にはある程度の腕があることは確かだ」 と言って、部屋を出ていった。   何も言われなかったが、おそらく「ついて来い」ということだろう。 僕は彼を追いかけた。彼は玄関にいた。 玄関といっても、部屋から出ればそこはもう玄関だ。 「……この鍵だな」   神田さんは左から二番目の部屋を開けた。 化学薬品のにおいが漂ってくる。 僕はその中へ入った。 寝台が一台。あと、手術に使うであろういろいろなものが置いてある。   左から二つ目の部屋は手術室か。僕は勝手にこの手術室を二号室と呼ぶことにした。 そうなると、さっきいた部屋は何号室になるんだ? 一番右の部屋。左から数えて……えーっと……。   必死に考える僕に神田医師は言った。 「勿論だが麻酔はする。あと、少しの間だけ眠ってもらうよ」   ああ、聞いたことがある。手術の前に特別なにおいのものを嗅がされてしばらく意識がなくなるという。 「どれくらいかかるんですか?」 「時間か?……だいたい3時間ぐらいかな」   長いな。手術を受けたことがないから分からないが、けっこうな時間に思う。
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