第一章

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キキーッ 駐車場へと車を滑りこませる。 ははっ、まるで大好きな子との初デートの時間にギリギリ滑りこむ高校生のようだな。 相変わらず子供のように妻に恋い焦がれる自分を嘲笑った。 なんだかおかしくなってフフンと鼻歌を歌いながら車を降りて駐車場をでる。 ドンッ 駐車場を出て左に曲がった所で人とぶつかった。 「すいません!」 いつもの癖で一言謝りよく見るとぶつかった人物は全身黒ずくめの男だった。 顔は不気味に垂れ下がった前髪によりよく見えない… 「あ…あ…」 男は気味の悪い声を発したと思うとすぐに走り去った。 不審に思いながらも玄関のドアを開けようとした所でさらに不審な点を見つけるのにはそう時間はかからなかった。 電気が… ついていない…? まさか一人で淋しくて友達と遊びに行ったのか…? それにしては玄関の鍵は空いていた。 美紀はおっちょこちょいな性格のせいか昔はよく鍵をかけ忘れて出かけてしまう癖はあったが 私が散々注意をし続けていたおかげか私の知る限り過去3年はその癖も治っていたはずだ。 あ、それとも今日は何かの記念日だったか? 私はしばし考えた。 美紀は何かの記念日などにはたまにサプライズでこうして家中の電気を消して、入ってきた私を脅かしてくれる。 しかしいくら考えても何の記念日かは思い出せない。 色々な思考を巡らせながらも高まる鼓動を抑え切れないまま、廊下を抜けリビングへと繋がるドアへと手をかけた時にもうひとつ違和感を感じた。 生臭い… なんか変なものを料理したのだろうか? カチャリとドアノブを回す。 ピタ… 一歩踏み出した足元は濡れていた。 ん? なんか棒状の細いものを踏んだぞ。 美紀は綺麗好きだから普段床が濡れている事も何か落ちていることも有り得ないはずだった。 「はぁはぁ…っ」 言い知れぬ恐怖と不安で動悸が乱される。 何が起こっているのかもわからない頭のまま… 震える右手を電気のスイッチまで伸ばして… カチッ 私は電気をつけた――― .
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