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朝海は明の後ろで、夏の風を感じた。
ものすごいスピードで街が通り過ぎていく。見慣れたはずの景色が、いつもとは違って見えた。
「なぁ、朝海!海はどこだぁ!?」
必死に自転車を漕ぎながら、明は朝海に尋ねた。
「あんた場所も知らないのに海に誘ったの!?この道を…」
ゴォーーー
風が強すぎて思うようにしゃべれない。
「あぁーー??何だって?全然聞こえねーよ!」
明も風の音に負けないように大声で叫んだ。
「右よ!みぎぃぃぃ!」
朝海も明に負けじと大きな声を出した。
「なぁ、ちょっと虫あみ持っててくれねぇか?邪魔くさくて思うように漕げないよ!」
「あんたが勝手に持ってきたんでしょ?」
渋々、朝海は明から虫あみを受け取った。朝海が虫あみに目をやると、汚い字で
『しのずか あさら』と書いてあった。きっと、『しのづか あきら』と書きたかったんだろうが、幼い明には限界だった。
…この虫あみは!?
朝海は8年前の出来事を思い出した。
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