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「おじさん明の事心配してるんだよ。」
「……かもな。」
二人は無言になった。
明の赤いほっぺたを見て、朝海は何もできない自分に苛立ちを覚えた。
でも、何も出来なかった。
「痛いの?」
そのセリフを言う事が朝海にできる明への精一杯の優しさだった。
「くすぐったい。」
朝海にはわかってた。明がとぼけるのが、私に心配かけまいと強がっているって事を。
二人の間に重い空気が流れた。
「あっ、雨止んだね。」朝海が手を傘から外に出してつぶやいた。
「ああ」
「……」
また無言の時間が始まった。明はずっと空を見上げている。朝海は傘をたたみながら明を見つめてる。
「明は中学校卒業したらどうするの?」
朝海も明と同じように空を見上げながら尋ねた。
「…ネバーランドに行って2代目ピーター・パンの座を狙う。」
「高校に行きたくないって事は就職するの?」
「さぁ、先の事はまだわかんねぇ。」
「そっかぁ…。何かやりたい事が見つかるといいね。今日はもう帰ろ?おばさん達心配してるよ、きっと」
「朝海…心配かけてごめんな。俺強くなる。」
朝海は黙ったまま手を差し出し明をベンチから立ち上がらせた。
明と朝海は、海が見渡せる小さな公園に別れを告げ家へと向かった。
雨も止み、雲の隙間からこっそり月が覗いてた。
ほんの少し月が笑った気がした。
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