ある死刑囚の願い

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ワシは今度産まれるときは、死刑の意味が理解出来るようになって死にたいんじゃ。 今も、今日の夜に死刑になると看守さんに言われても、なんも理解できとらん。 最後に何が食べたいって聞かれたから、先生がくれたパンが食べたいっていったら、先生がきてくれておどろいちょる。 あれ、先生が自分で作ったんか?。 だから先生がきてくれたんか。 そうなんか、ちょっと固いけど、ワシにはあれくらいが食べてる感じがしてうまかった。 だから、今食べれてすごい嬉しいんじゃ。 先生が色々教えてくれんかったら、ワシは自分の名前がなんだったかも知らんかった。 この場所にきて、ワシがやってしもうたこともやっとわかった。 正直、自分がやって来たことが、悪いことだっちゅうのもわかっとらんかった。 そんで、ワシガ死刑になったとたんにワアワア他の人がいう意味がわからんかった。 ワシが死ぬことがきまったのに、どうしてあんなになあ。 ん、先生はどうして泣きながらわらっちょるんじゃ?。 こういうのがあるのが″死″なんか?。 不思議じゃのう。 ああ、もう時間なんか。 怖くはないかって?。 先生、ワシは頭悪いけん、難しいことはわからん……いや、死は難しいことなんかのう?。 それもわかっとらん。 でも、どっちかといえば、今は淋しいとか、だのう。 もったいないのはな、ワシは、死刑になるということをわかっとらん。 この国で一番重い罪を犯したこともわかっとらん で、淋しいは、死刑になったら先生に会える時間がもうないってことじゃ。 最近、やっと淋しいのいみがわかって、うれしいんじゃ。 何も知らんかったけど、ワシにもわかることがあって、嬉しいんじゃ。 だから、先生、泣かんでくれ。 今度産まれて来るときは、死刑の意味がわかるようになって産まれてくるように、がんばるから。
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