アプリコットの雨が降る

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  「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」  恐怖が頂点に達した俺はパニックを起こし、この場から逃れようと小川へと飛び込んだ。  腰の高さ程の水位で流れに乗れる訳がない。しかしその冷たさで僅かに冷静さを取り戻す。 「アプリコット、ヤハリ逃ゲラレナイヨウダヨ」 「……やっぱ、戦わなきゃ、なんだね」  電子音のような不自然な声と、舌足らずな高い声。  この時ようやく俺の後ろに誰かがいたということを思い出す。  そこにいたのは俺と同い年ぐらいの少女。その肩にはぬいぐるみのようなクマが笑顔で乗っている。  そのクマは肩から離れると表情を崩さぬまま勢い良く駆け出した。  そいつが踏みつけた水溜まりからセピア色のいくつもの雫が散り、その水滴が氷の結晶となって刈谷を襲う。  だが刈谷が小さく溜め息を吐くと彼女の周りに小石や小枝が浮遊し、それが赤い光へと変わって全ての氷を砕いた。  それと同時に少女が両手を前に突きだすと、川から青い竜のような光が現れて刈谷を真横から狙う。  しかし刈谷はそれに目を向けることなく同様に赤い光で打ち消した。 「ダメ、か……」  白い花びらが舞い散る中、゙アプリコッドと呼ばれた少女は呼吸を荒げながら呟いた。  緑色の瞳にきらきら輝く銀の髪。白いワンピースがひらひらと舞う。そしてその格好にそぐわない赤い長靴を履いていた。  色彩の失われたこの場所では彼女はまるで゙光゙のようだ、とぼんやり考える。  しかしそんな彼女の姿を見ていると、別の想いが強くなっていった。  俺は知っている。  流れるようなおかっぱ頭も  傷一つない赤の長靴も  不自然なクマの笑顔も  彼女の淋しげな瞳も。  知っているんだ。知らない゙色゙をしているけれど。  だけど、どうして。 「……ウメ?」  彼女はその声にぴくりと体を震わせると、ゆっくりと顔をこちらに向ける。 「はる……き……?」  彼女は掠れた声で俺の名前を呟くと、呆然と俺を見つめたまま硬直した。  次の瞬間、クマに赤い光が直撃しその小さな体が無惨に破裂した。  しかし彼女はそれに気付く様子もない。  そして今度は赤い光が隙だらけの彼女を狙って飛んでくる。 「ウメ!!」  俺の叫びさえも、届かない――― 「アプリコット!!」  誰かの声が響き、大きな黄色の光の塊が赤い光をギリギリの所で吹き飛ばす。  パラパラと降り落ちる黒い灰。
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