アプリコットの雨が降る

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   声の主は栗色のストレートロングヘアーに茶色の瞳をした女性だった。焦げ茶のロングスカートに緑のポンチョを着ていて、左手には大きな本を抱えている。 「逃げるわよ、アプリコット!」 「あ……アネモネ」  ようやく我に帰ったらしいウメ。  しかし黄色い光がウメを包んだ次の瞬間、彼女の姿は消えてしまった。 「ウメ!」  俺が叫ぶと、アネモネはちらりとこちらに目をやる。  すると彼女の本から黒い物体が現れて俺の腕に巻き付いた。 「うお!?」  よく見るとそれは《文字》だった。いくつもの漢字、ひらがな、アルファベットが集まり帯状になっているのだ。  そして川から一気に引き上げられ、宙へと放り出される。しかし落下する前に俺は無数の文字に囲まれ、黄色の光に包まれた。  その眩さの中、刈谷が不愉快そうに笑うのが見えた。  俺が目を覚まして最初に見たのは、どこまでも広がるセピア色の空だった。  それをぼんやりと眺めていたが、今の状況を思い出し慌てて起き上がる。 「お目覚め? ようこそ、アミグダラへ」  その声に振り返ると、すぐ側でアネモネが本を読んでいた。 「ウメは!?」 「それがアプリコットの本当の名前なのね。あのコならどこかに隠れてしまったわ」  それを聞いて俺はすぐに駆け出そうとしたが、アネモネに引き留められる。 「此処のこと何もわからないまま一人で彷徨かない方がいいと思うわよ。まあ私の側になんて居たくないでしょうけど」  この時初めてアネモネの体が透けていることに気付く。  ここは俺にとって理解不能な場所。話を聞いた方が良さそうだ。 「あのコにこんなお友達が居たなんて、驚きね」  そう言った彼女の表情は驚いているようには見えなかった。というよりも表情が乏しい人なのかもしれない。 「ここは《アミグダラ》。現実の狭間に存在する魔法の世界」  彼女は事も無げに言ったが、俺自身もここが魔法の世界であることには何の疑問もなかった。 「望めば何だってできる。その《原動力》は《負の感情》なのだけど」 「負の感情?」 「例えばさっきのロベリアなら、《殺意》。まあ見たままね」  どうやらここでは刈谷はロベリアと呼ばれているらしい。 「負の感情が強い程、生み出すものも大きいわ。だから彼女は強いのよ」  俺は刈谷の冷たい瞳を思い出し、身震いする。 「そしてアプリコットの《原動力》は ――孤独」
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