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しかしながら、漣は何不自由なく今まで生きてきた。食べるものも困ったことはない。ただ、自分は一体どこから来たのだ、どうしてここにいるのか、それだけが漣の頭を支配していた。
3日前、漣は児童福祉施設を取り上げた番組をテレビで見ていた。それから漣の頭の中は、そのことばかりだった。早朝、中之島公園を散歩し、独りで白い息を吐き、じっと考えても、結局答えは何も見つからなかった。
「漣、遅刻するで」
妃が箸の止まる漣に声をかけた。妃も、漣の様子がおかしいのは3日前のテレビのせいだと気付いていた。彼がつじつまの合わない自分の境遇に疑問を抱いているのかもしれない―
しかし漣には、絶対に知られてはならなかった。妃はそのことを隠し続けるのは反対だったが、伝えた所で彼がそれをどう背負うのかは答えが見つからなかった。
知らない方がいいこともある、妃はそう自分に言い聞かせたが、漣も18歳、ファミリーホームでは里子に対して補助金の支給対象は18歳迄だ。今年で漣はもう家を出なければならない。妃には、彼の境遇を伝えるなら今しかないという気持ちもあった。
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