第1章『孤独』

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不安と期待、どちらを信じていいのか分からず、ただ漣の言ったことを噛み締めていた。彼のやりたいこととは一体何であろうか。 「あの子、やりたいことあったんや…」 妃は正直、驚いた。進路の話をして、漣が自分からやりたいことを口にしたことはなかった。それが何であるかは知れなかったが、彼にやりたいことがあることだけは知ることが出来た。 「そやね…ちょっと心配しすぎたみたいやね。ごほっごほ」 眼下のくまが濃くなっている伸子が口に手を押さえながら咳をした。妃は返す言葉が見つからなかった。 「あの子をここで育てると決めた以上、最後まで責任持って見届けないとね…」 続けて伸子は優しい口調で言った。それを聞いた妃はテーブルの上の皿を片づけ、台所で皿を洗い始めた。時々振り返って母・伸子を見た。 後ろ姿の母はいすの上に置物のように座っていた。時が止まっているようだ。白髪が混じり、いつの間にか自分より小さくなった。 体も痩せ細った母が右手が痺れるのか、左手でゆっくりと擦っている光景が、心の中を痛く突いた。
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