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玄関を出ると、待ちぶせていたかのように冷たい風が頬をついた。早朝より寒い気がする。肩を高くして歩き始めると、後ろから声がした。
「漣!ちょっと待って!」
後ろを振り返ると、里親が走って来た。痩せ細った右手には、黒の手編みマフラーと、左手には折り畳み傘をがっしりと掴んでいた。
「寒いやろ?そんな格好してたら風邪ひくで!ほんでこれ。雨降ったらあかんやろ」
と言い、背伸びをして、ゆっくりとマフラーを巻き、傘を手渡してくれた。
「…うん」
漣は少し照れながらそう言うと、向きを変え、足を前に進めた。
「遅刻したらあかんで!」
里親の声が背中の後ろで聞こえた。寂しそうな声だった。
寂しい?俺がどれだけ寂しい思いをしたと思っているんだ―
孤独が心に突き刺さった。何故自分だけ八尋の姓を名乗っている?何故自分の親だけ姿を見せない?親子の繋がりなんてもうないのか。みるみるうちに、気持ちが冷めていった。
会おうとしたこともない。手段を知らないだけだ。だけど本音は、会い、たい―
顔を見れば、カッとなって吠えるに違いない。
『ふざけんな!!』
それも叶いそうもない。俺は独りで生きていくんだ―
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