第1章『孤独』

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電車が緩やかに出発し始めた。厚着をした人たちが吊り革に掴まり、じっと立っていた。 漣は電車に揺られながら、窓の外を見ていた。毎朝見る、いつもと変わらぬ風景だ。早朝とは違って曇り始めている。確か、雨が降るとか言っていた。冷たい雨になりそうだ。 大阪城公園駅、森ノ宮駅の次、玉造駅に停車した後、周りの人間が大きく入れ代わった。玉造駅に停車中、漣は心臓がバクバクと大きく脈打ち始めた。窓にもたれて、辺りを見回した。 「そう!私もそうだったし!」 いた― この車両の奥に、朝の通勤通学ラッシュの人ごみの中で話す女子高生が2人。仲良く、今日も楽しそうに話している。 本当はそれだけで満足だった。毎朝、この玉造から彼女が乗ってくると期待しているだけで、胸がいつも高鳴った。決まって2人でこの車両に乗り込んでくるのも知っている。恐らく、階段を上がってすぐの場所がこの車両だからだ、と漣は思った。 今日も会えて良かった。もう一人はどうでもいいが、偶然を必然に変えてこうして彼女だけを遠くから見ているだけで、それだけで良いのだった。
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