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鼓動が激しくなり、息が苦しいほど、体が緊張していたのが自分でも分かった。
桃色のマフラーをした彼女の名前は、柊瑠璃(ひいらぎるり)という。肩くらいまで伸びた黒髪に大きな瞳が輝き、華奢な体つきに清楚な声、笑った時にみせる笑窪が印象的だ。
ホテル業界屈指の『ヒイラギホテル』の社長令嬢で、ドイツ生まれのイギリス育ちだと言うのを、漣は噂で耳にしたことがあった。
彼女の瞳にひきつけられる―
心を閉ざしていた自分を救ってくれたのは彼女だった。高1、高2では、里子としての自分を知られたくなく、演技ばかりして壁を作っていた。心を開くのはごく少数だ。
3年になった今年4月、彼女と同じクラスなった。それまでは彼女の存在は噂程度であまり知らなかった。たまたま席が近くになった時、彼女が鉛筆を落とした。手渡す時に、目が合ったから微笑んだ。微笑み返してくれた時の顔が忘れられない。でも自分には手の届かない存在だった。
彼女は車で送迎してもらっている、というのも天王高校では有名な話だったが、3年になった今年からよく玉造駅から乗ってくるようになったらしい。それが何故だかは知らないが、自分にとっては純粋に学校に行く楽しみが増えた。
まさか、俺と会うために…なんてよく勘違いもした。
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