第1章『孤独』

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東に浮かぶ朝靄(あさもや)が、白い光のように大空に漂っていて眩しい。北浜から天満橋のビル街が霞んで見える。土佐堀川が早朝の朝日を反射して、光を放っている。その上を天神橋(てんじんばし)が悠然とかかっている。 八尋漣は眉間にしわを寄せ、ポケットに手をつっこんだ。白い吐息を吐きだし、肩を高くして中之島公園の散歩道を歩き始めた。朝日を浴びる182センチの長身は、道を作っているレンガの上に影を落としている。 漣は欄干に近づき立ち止まって、朝日の方を向いた。下には濁ったどぶ川がある。そして東の朝靄を睨んで眼を細めた。そのまま奥二重のまぶたを閉じて、12月の澄んだ白い冷気を肺に吸い込んだ。 しばらくして目を開けた― 寒さと戦うようにもう一度大きく息を吸い込み、口から吐き出した。吐息が白い気体となってどこかへ消えた。体の内から毒が洗い流されていくようだ。 近くにある時計台を見て、くるりと向きを変えた。そろそろ帰ろうか。朝食の時間になる―
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