第1章『孤独』

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「ほんとにいいから」 「早くせえへんととられるで?野球部主将はモテるわ」 元野球部主将の斉美仁儀(さいびじんぎ)は、漣と瑠璃と同じクラスで、漣の友人だった。だから瑠璃は咄嗟に斉美仁儀の名を出した。休憩時間に時々漣を見つめていた時、いつも漣の隣にいる斉美仁儀がうらやましかったからだ。 八尋漣と席が近くになった時、鉛筆を落としたことがあった。彼が拾って手渡してくれた時に、いつもはクールで見せない微笑みに心が弾んだ。彼の自分だけに見せたあの笑みが、たまらなく可愛いと思った。 八尋君は環状線に乗って通学している、と雫から聞くと、それまでしていた車での登校をやめ、今年から雫と一緒に環状線に乗って電車通学を始めた。 漣に会うためだ。それしかない。そのために、雫の漣に対する好意も嫌々聞いてきた。彼のことをもっと知りたい、そう思った。 電車が目的の天王寺駅についた。 漣がドアの前に立った。そのすぐ後ろに瑠璃と雫は場所取りのように列をなした。瑠璃は目線を高く上げ、こんな近くに八尋漣がいることに胸を焦がした。 扉が開くと、冷たい風が車内に吹き込み、その風の流れに逆らう様に3人は電車を降りた。
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