第1章『孤独』

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12月の木々の枝は葉のない裸になっていて、真冬の風がそれを強く揺さぶっている。歩いていると頬にもぶつかってくる。キンと冷たい。 散歩道をしばらく北浜方面に真っ直ぐ進み、階段を上った。土佐堀川をまたぐ難波橋(なにわばし)の上に出ると、歩道をとぼとぼと歩いた。 天満警察署、大阪地方裁判所付近まで来た。10分ほどでこの辺りに着く。梅田はすぐそこだ。西天満小学校向かいの道路を挟んだ裁判所裏の所に、平屋が並ぶ住宅地があった。その中の一軒に、名前も知らない木がそびえ立つ。 その木が生える所が漣の自宅だった。門には、変色した木に『ファミリーホームやひろ』の文字が入った看板がある。京阪なにわ橋駅から徒歩圏内だ。 漣は自宅の門を開けると、すぐに玄関が開いた。そこには花柄のエプロンを来た八尋伸子が仁王立ちした。 「漣!またこんな早ようから何処行ってたんや!いつもいつも…!」 朝から出歩いていた漣をなじった。ボサボサの髪の毛を適当に縛っている。エプロンの下は貧相な身体。手などは骨の形がくっきりでているし、声に張りがない。 「別に」 漣は伸子の目を見ずにぽつりとそう答えた。
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