第1章『孤独』

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伸子がそれ以上責め立てることはなかった。威勢の良さはフッと消え、物悲しい顔つきになった。 「ほな早ようご飯食べや。みんなも待ってるで。もう用意してるから」 伸子はそれだけ言い、中へ入っていった。漣はゆっくりとそれに続いた。 家の中は既に暖かかった。かじかむ手が和らいだ。漣は靴を脱ぎ、さっさとリビングのドアノブを回した。ポロシャツにジャージを着た八尋妃(きさき)が湯のみにお茶を注ぎ、漣に気づいて顔をあげた。 「漣、おはよう」 今か今かと朝食を待つ小学6年生の風広榮太朗(かぜひろえいたろう)と、小学生3年生の細見京(ほそみきょう)は、漣を見るなりおはようと言ってきた。セーラーの上にエプロンをした中3の高階梨青(たかしなりせ)は、食事をテーブルに運んでいる時に漣に気づいた。 「漣兄ちゃん、朝ごはん出来てるで」 梨青はにっこりと笑顔を向けた。漣はいつもの席に座った。伸子の向かいだ。伸子は妃が入れたお茶にまだ手をつけず、じっと漣を見つめていた。
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