第1章『孤独』

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「別に…」 漣はとりあえずそう答えた。理由など言っても仕方ない。妃に言ったところで何にもならない。 「びっくりするやん。朝起こしに行っておらんかったら」 そんな妃の言葉をかき消すように、少し茶色がかった髪を掻きながらお茶を飲んだ。 「漣兄ちゃん、どっか行ってたん?」 9歳の京はご飯粒を口につけながら聞いてきた。こいつに真面目に答えるほど意味のないものはない。 「宇宙」 漣が適当なことを言うと、京は笑いながら「嘘や」と言った。榮太朗も梨青も、会話を聞いているだけで入ってこなかった。漣としては、その方が良かった。放っておいてくれた方が気楽だ。弟も妹も、それを知っているらしい。 「あ、母さん、学級費!」 「僕も!」 すると榮太朗と京が思い出したように箸を置いて鞄から茶封筒を取り出した。 「入れとくから置いといて」 伸子が味噌汁をすすってそう言った。それを見て漣は思った。何故この人は金を出すのだろう― いつも学級費や給食費の支払いで封筒を伸子に渡した。担任に、お家の人に渡すように、と言われたからだ。何の疑いもなく、この人は金を出した。 俺達が実の親子なら、それは理解できるのだが―
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