第1章『孤独』

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漣にはひとつ疑問があった。他の里子は皆、それぞれの姓名を持っている。しかし、自分にはまだ見ぬ真の親がいるはずなのに、八尋の姓を名乗っている。何故なのか、それを問い詰めたことはない。自分が名前を言うときは、「やひろ・れん」と言うように教わってきたからだ。 6年前- 9歳の梨青がこの家に来た。彼女には若い母親がついていた。母親はどうも離婚が原因でしばらく実家に帰るらしいが、親権問題なども影響ししばらく預かって欲しいと、このファミリーホームを尋ねた。大阪市の紹介らしい。 妹が出来た漣は嬉しい半面、理解に苦しんだ。彼女には母親という存在がいるのにも関わらず、何故一緒に暮らせないというのか。しかも今でもその母親は梨青の顔をたまに見に来る。八尋伸子はそのたびに梨青の成績やテスト、生活ぶりなどを報告している。 梨青が来た3年後に9歳の榮太朗が来た。ここに来たばかりの彼は酷く痩せており、全身に青痣があった。虐待により強制的に親と別れ、距離を保たれているそうだ。いずれにせよ、榮太朗にも実の親がいるのだ。 そしてその1年後、7歳の京が来た。借金で破産した両親が京を置いて自殺し、彼の叔父がここへ連れて来た。叔父も生活に苦しく、京を育てられないということだったらしい。こいつには頼れる生みの親がいない。
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