第1章『孤独』

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京だけが親を失い、ここにいる。だが叔父という親戚はいるのだ。しかし漣は、親や親戚がいるのかどうかも分からなかったし、生きているのかどうかも知らなかった。それが証拠に、自分は八尋家の姓を名乗っている― そんな子供達が暮らすこのファミリーホームとは、児童福祉施設のように多人数の子供達がいるのではなく、一般家庭に3~4人の子供が本当の家族のように暮らす里親制度だ。 里親の八尋伸子とその娘・妃、そして里親の友人で、夕方頃から来る相米悦子(そうまいえつこ)の3人が子供達の世話をしている。大阪市が子供一人当たりいくらかの補助金を出すので、伸子は家計簿でやりくりしながら子供達の学級費や給食費、生活費を捻出しているのだ。漣はたまに、夜遅くに老眼鏡をかけて計算機を叩いている里親を見ていた。 その八尋伸子が出す金とは市の補助金なのだ。血縁関係のない子にボランティアで金を出すはずがない。榮太朗と京が封筒をテーブルに置いた時、漣はそんなことを思った。
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