英雄(勇者と魔王)

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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 軌道が、消える。魔王の大鎌と、勇者の剣。二つの刃が敵を殺さんと牙を向ける。金属音が辺りに響き渡り、常人では視覚出来ない戦いが続いていることを示している。 「ハハハハァ!楽しいな!楽しいな勇者ァ!」 笑う。晒う。戦いを楽しみ、この戦いを娯楽としてきた魔王が。 「やっとだ!やっと私と対等に争える存在が現れた!」 退屈な日々。悠久とも思える時間の中、試せる娯楽は全て試した。それでも、それでも足りない。生涯を全うする程の時間を使う娯楽がない。故に、この戦争も娯楽。永い時を生きてきたが故に賭けるものは自らの命が最適だと悟った者の、命を賭けた娯楽。最早ただの暇潰しになりかけた、遊戯。 その筈だった。 「憎い!憎いぞ!この喜びを表しきる言葉が存在しないことが憎い!」 歓喜。驚喜。そして、狂喜。どの言葉を使っても表しきれない、魔王の身体から溢れ出さんとする嬉々たる思いの丈を、目の前の勇者にぶつける。 「抗え!牙を向けろ!私を!私をもっと楽しませろおおおおおおおおおおおお!」 狂ったかのように、いや既に狂った魔王は、ただ大鎌を振るう。相手を殺すのがこの娯楽の目的。その目的を果たすため、達成するためだけに凶刃を、狂刃を振るう。
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